by Mark Ferguson(コイン専門家、元PCGS鑑定士、CAC Market Value発行人)
ここ数年、老舗のコインディーラーやベテランのコレクター投資家は、”コイン趣味の高齢化 “について懸念を表明しています。
コイン市場のプレイヤーの大半は定年を迎えているか、それに近い年齢であり、ディーラーやコレクター投資家としてコイン市場に参入する若い人が少なくなってきています。原因は、若い人たちが電子機器やSNS、その他アクション満載のスリルによってコレクション趣味への興味を失っているからと考えられています。言い換えれば、”誰が私たちのコインを買ってくれるのか?”ということです。
これは時代の変化でしょうか?白髪のコレクターやディーラーは若かりし頃、なぜコインに惹かれていたのでしょうか?
端的に言えば、それは利益を得られるからでした。両替やお釣りの中から額面以上の価値のあるリンカーン・セントや銀貨を見つけるのは宝探しのようで楽しいものでした。また、そのままコレクションとして保有することもありました。
1960年代、私の中学2年の時の担任の先生は、ドルの価値が低下していることを説き、銀貨を集めるように勧めてくれました。先生の言葉は何人かの生徒の心に響きました。10代の頃にコイン売買を始めた白髪のコインディーラーの多くは、このような経験を経ています。
現在も現役で活躍している有名なディーラーの多くはコインだけでビジネスを成功させています。1960年代半ばから後半にかけてSilver certificate(銀貨と交換できる紙幣の一種)の売買で稼いだ人もいました。
1970年代、先生のアドバイスが正しかったことが証明されました。アメリカで金の私的所有が合法化されたのです。銀と金の価格は加速し始めましたが、同時にガス、食料品、その他の商品やサービスの価格も上昇しました。国民は、モノの価格が上昇することに疑問を持つことはなく、そういうものだと考えていました。商品やサービスの価格が下がることはめったにありません。私たちは政府から、インフレはコントロールされていると言われてきました。
以後の世代は、消費者物価の急激な上昇に遭遇することもなく、インフレがどういうものなのかも知らない。しかし、経済専門家の中で今後そのような状況に変化が現れると警告する人が増えてきています。そして、このような時こそ、白髪のベテランコインディーラーの経験に耳を傾けるべきなのです。
私たちの多くは、コイン市場における需要と供給、価格の「サイクル」を何度か経験しています。私たちはそのような時代を生き、仕事をしてきたので、1970年代のインフレも覚えています。
当時の消費者物価の上昇に対して、投資家はコインディーラーに資金を投じていました。多くの投資家はコインについてあまり知らなかったし、どちらかというと興味も持っていませんでしたが、インフレヘッジを求める富裕層の投資家によって、私たちのコインを買ってくれる需要が生まれました。コインの売買で利益を得たいティーンエイジャーからではないのです。若者のコイン市場への参加は大歓迎ですが、残念ながら一般的に彼らはあまりお金を持っていません。
PCGS3000インデックスのグラフに示されているように、1980年に一時的なピークがありましたが、その後コイン市場は突然、急停止しました。1981年と1982年の間は後退しましたが、インフレへの期待は続き、1980年代の残りの期間を通じて需要と価格は前例のないレベルにまで上昇しました。
英国バッキンガム大学国際通貨研究所のティム・コングドン会長は、2020年4月24日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙の中で、「歴史はアメリカがまもなくインフレ・ブームを迎えることを示唆している」と述べています。
「Get Ready for the Return of Inflation(インフレの再来に備えよ)」と題された論文は、ミルトン・フリードマンとアンナ・ジェイコブソン・シュワルツが著書『米国の貨幣史』の中で、大恐慌の主な原因は通貨量の急減であることを示したことを指摘しています。
インフレ率の高さがコイン市場に直接影響を与え、稀少コインの価格を上昇させることは歴史が証明しているので、ここ数週間のマネーサプライの増加に関連するコングドン氏の記事から引用しておきます。
彼は次のように述べています。
「大恐慌の原因となる通貨量の急減に対応し、FRBは1週間で2%近くの通貨供給を行った。この上昇率が1年間続けば、複利で銀行預金が175%も膨らむことになる。銀行預金も通貨量に含まれるとするフリードマンとシュワルツの考えからすると、通貨量も同じような割合で急上昇するだろう。」
過去数十年の間、コインディーラーやコレクターから1980年の活気に満ちたコイン市場の時代を再現したいとの声をよく聞きましたが、その再現がついに迫っているのかもしれません。
コングドン氏は「独立戦争直後を除くと、ここ数週間は米国史上最高の通貨拡大率を記録している。2021年春までに貨幣の量は15%、場合によっては20%も増加していると考えるのが妥当だ。20世紀の2つの世界大戦中や直後に見られたピーク時と同じではないものの、平時の記録を上回り、1970年代当時を上回る可能性がある」と書いています。
インフレに備えるための稀少コイン投資は、利益を得るための道筋となりますが、すべてのコインの価格が上昇するわけではありません。中には価値が下がるものもあります。私はコレクター投資家にアドバイスしていますが、私が取っているスタンスは次のとおりです。
まず、稀少コインへの投資需要が、インフレヘッジを探している富裕層や超富裕層から来ることを認識してください。
第二に、彼らは高品質の稀少コインを求めています。
厳選されたCAC認証コインは彼らの目を引くでしょう。しかし、コインにCACステッカーがあるからといって、それが “投資品質 “であることを意味しないことを認識してください。低~中グレードのCACコインには、ハイグレードのCACコインが持つ富裕層への訴求力がありません。たとえCACのステッカーが貼られていたとしても、コレクションの穴を埋めるために安く購入できるからといって、MS62 1879-CC Capped-die Morgan dollar に投資家が惹かれることはないでしょう。低品質・低グレードのコインも避けましょう。
CAC認証の金貨には魅力がありますが、入手が難しくなる可能性があります。キーデートコインも魅力的ですが、需要はセットの構築に興味を持っている投資家に限られるでしょう。タイプセットは人気があり、自由度の高いセットを作ることができます。初期の記念 Half Dollarは1970年代に人気がありましたが、価格が下がり続けていることからもわかるように、その魅力はほとんど失われています。その傾向は将来変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。ただ、安価で収集できるので面白いかも知れません。
今は、品質が今一つのコインでもそれなりの価格が付くので、売却するのに良いタイミングかもしれません。ただ、富裕層の投資家はそのようなコインに興味を示さないでしょう。多くの中流階級のコレクターは、10年前の金融危機でコイン市場から退場させられました。彼らは、コレクションを構築するために、ミッドレンジ、キーデイト、ミントステートのコインを購入していました。
重要なことは、コイン市場の将来を考え、コレクション投資を慎重に計画することにより最高の結果が得られるということです。
コレクター投資家にとって、コレクションのためコンベンションに参加したりインターネットをチェックしたりするのは楽しい宝探しですが、私はしばしばコレクターが最初から重大な間違いを犯すのを目にします。長期的に一緒に仕事をするために信頼できるディーラーやメンターを見つけることを検討してください。
Mark Ferguson(マーク・ファーガソン)
弁護士の依頼による鑑定、遺産鑑定、 保険関連での鑑定、法律律案件関連の鑑定などの業務を行う米国を代表するコイン専門家・ディーラー。
1987-1990 米国 PCGS社にコイン鑑定士として勤務。PCGS はNGCと並ぶ世界で最も権威のあるコイン鑑定会社。
1976- ANA(約35,000人の会員を有する米国最大のコイン協会)の会員委員会 委員。
CACコインの独立した価格ガイドであるCAC Market Values発行人。
2002-2009 専⾨誌 Coin World の価格ガイド Coin Values のマーケット・アナリストを務める。Coin World 誌は 1960年以来、米国コイン市場における代表的なコイン情報誌。
CoinWeek.com のレギュラーコラムニストとして、自ら選んだ貨幣に関するトピックをテーマとするコラムを執筆中。
2014 著書「The Dollar of 1804 – The U.S. Mintʼ’s Hidden Secret」を上梓。